罪と罰 忘れるということ [LIFE]
6年ぶりの祖父の姿。
病室のベッドに横たわるその姿は、私が記憶していた祖父とは、やはり違った。
私たちの姿を見て、首を横に振り、言った。
覚えていない、と。
分からない、申し訳ございません、と。
”申し訳ございません”
その言葉を、こんな形で聞くことになるなんて。
「覚えていない事が、悲しいです。
本当に申し訳ないです。」
私が謝って欲しかったのは、そんなことじゃない。
ちゃんと、私の家族に謝ってほしかった。
そんな思いと、でも一方で、全部忘れてよかったね、とも思った。
そうでなければ、あんな風に会えなかったから。
お互い憎しみあったまま、最期を迎えたのだろう。
あなたはきっと、この数年間、あなたで苦しんでいたんでしょう。
謝ることもできず、怒ることもできず、ただひとりで。
きっとあなたはもう罰を受けていた。
だから神様は、あなたから記憶を消してくれたのかな。
また私たちが会えるように。
そして今度は、失った記憶にまたあなたは苦しんでいる。
なんて残酷なのだろう。
私は、なんて残酷なことをしてきたんだろう。
あの場の空気を和ませてくれたのは、間違いなく甥だった。
まだ2歳の甥は、祖父がもう最期を迎えようとしていることも分からず、
ただ純粋に、「おじいちゃん」と。
甥に手をにぎられた祖父が、まるでそのエネルギーが祖父に
入っていくかのように笑顔になった。
なんて美しいんだろう。
純粋なこどもと、過去のしがらみを一切忘れた純粋なおじいちゃん。
やっぱり人は、生きるにつれて何かをまとっていくのかな。
きっとそれでかっこよくなったり、素敵になったりもするのだろう。
でも今日ふと、でも純粋な、素直な自分には何も及ばないと思ったの。
ごめんね。
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